日経新聞平成27年12月11日(金)の記事より。
「12月10日、2016年度の税制改正大綱の大枠が固まった。
企業収益を底上げし、賃上げや投資増を呼び込む「アベノミクス」の息切れを防ぐ狙いから、法人実効税率の引き下げ前倒しを決めた。
ただ、人口減などの構造変化をにらんだ税制作りは歩みが鈍い。本丸の所得税改革も来夏の参院選への影響を懸念して先送りした。
一億総活躍社会の実現には力不足だ」
2016年度の税制改正大綱が発表されました。
もちろんまだ法案になったわけではないので、決定確実ということではないのですが、現状衆参でねじれ国会でもありませんから、おそらくこの大綱案がそのまま法案として可決成立するのではないかと思います。
さてさて、肝心の内容ですが、
・法人税⇒減税(ただし、大企業の減税分が賃金や設備に回るかは未知数、外形標準課税は増税)
・所得税⇒きわめて軽度の減税(抜本的な改革なされず、減税はパフォーマンス?)
・消費税⇒軽減税率最終調整中
・相続税、贈与税⇒特に改正無し
といったところです。
近年は、相続税の大改正や、消費税の税率改正など、大きな改正が相次ぎましたが、来年度は選挙前ということもあるのか、あまり大きな改正はされませんでした。
日経新聞紙面上でも「力不足」と評していますが、私も同感です。
それどころか、大きな懸念点として、消費税の軽減税率問題があります。
これは本当に問題ですよ。
税理士として税務業務を行っていますと、実務で相当混乱が生じるのは目に見えています。
それだけでなく、税が政治に利用される、すなわち税で票を買うということを誘因しかねません。
本当にこんなことやるんでしょうかね。
さて、税制改正について、もう一言。
今年はトマ・ピケティの「21世紀の資本」が大ベストセラーになりました。
税に関する書籍がこれほど売れるというのは極めて珍しいことです。
ピケティが警告していたのは、
資本主義を放置すると格差は拡大するということ。
また、日本のように人口が増えない社会では、現在の所得よりも過去に蓄財した財産の方が重要であり、受け継ぐ財産の無い若い世代にとって、財産の世襲は大きな格差を生み出すということ等でした。
同時に、ピケティは日本の経済政策について「アベノミクスには、格差拡大のリスクはあります。株価は上昇しても、本格的な景気回復につながらずに、格差は拡大するだけかもしれません」
とも言っています。
出典:2月2日(月) WBS
日本はもっと若年層や中間所得者層を優遇する税制を推し進めるべきではないかと思います。
特に、資産が少なく労働所得しかない若者をもっと優遇すべきでしょう。
若者が多い非正規雇用の待遇改善なども同時に行う必要があります。
所得税は近年増税傾向で、若者はなかなかお金を貯めにくい環境にあります。
賃金もなかなか上がりません。多少上がっていても物価も上がっているので結局お金はたまりません。親が金持ちならいいですけど、そんな人は少数です。
今回の税制改正で、若者が将来に希望を持てるでしょうかね。
大企業の減税効果が中小企業等に勤めている若者の給与に回る頃には、平成29年4月の消費税の税率改正があるような気がするのですが。
そうすると結局手取りは増えませんよね。
ピケティによれば、
「起業家が財産を築くのと同じくらいの速さで、相続による財産が増えている」とのこと。
一般国民がいくら働いても、格差はさらに広がっていく。
日本でも少子化が急速に進んでおり、多額の相続をする人とそうでない人の格差はますます広がる恐れがあります。
「中間層に対して減税」し、かつ「高所得者の資産に対して増税」するという、政治的な対策が必要だと思いますね。
(了)